特定遺贈であれば家族でなくても財産を相続できる?
基本的に財産は亡くなった人の配偶者や子供、親や孫というように、家族の中でも特に近い人から優先的に相続していきます。
ですが、正しい形式の遺言を残しておけば、特定の財産を家族以外の第三者に譲渡することも可能です。
この家族以外の第三者に渡す「特定遺贈」とは、どんなものなのでしょうか?
特定遺贈とはどんなもの?
特定の財産を血縁関係のない第三者に相続させることを特定遺贈といいます。
たとえば、Aさんは甥のBさんと一緒に長く農業を営んできたとします。
Aさんには妻と2人の息子がいますが、息子2人はすでに独立。Aさんが亡くなると、故郷の家屋、農地、Aさんの預貯金などAさんの財産だったものは、誰に何を残すという特別な指定をしていなければ、すべてAさんの妻とその子供2人に渡り、基本的には妻が2分の1、息子2人が残りの2分の1を相続します。
しかし、Aさんの妻も息子2人も、今さら農業はできそうにないので、農地は処分されてしまうかもしれません。
そこでAさんは、農業について教えてきたBさんに、自分の農地を渡したいと考えました。
Aさんから見て、Bさんは身内ですが、優先順位の高い相続人ではないので、配偶者と子供が健在の場合、本来なら相続財産はありません。
「そこをあえてBさんに農地という特定部分を相続してもらう」ということが、特定遺贈にあたります。
特定遺贈は財産を残したい人がいれば、まったくの第三者でも団体でも構いません。
特定遺贈には2種類ある
特定の部分だけ法定相続人でない人に譲渡する特定遺贈には、「土地のみ」「預貯金のみ」のように特定されたものだけを譲る「特定遺贈」と、「持っている財産のうちの20%を譲る」というように、取り分の割合だけを指定した「包括遺贈」があります。
「特定遺贈」は、特定の財産を受け継ぐ権利のみなので、債務は引き継ぎません。遺産分割協議からも外されるので、もめることも少ない相続方法です。
しかし、遺言作成から時間が経ち、土地や建物など特定遺贈として指定した財産が処分されてしまえば、この遺言は無効になります。
「包括遺贈」は遺産全体のうち何割など、取り分が決められている相続方法です。特定遺贈と異なり債務も引き継ぎます。
時間経過で財産構成が変わっても無効にならない、という利点がありますが、相続人に混ざって遺産分割協議に参加しなければなりません。
特定遺贈の注意点
法定相続人以外の人に特定の財産を譲渡するためには、遺言の作成が必要です。
また特定遺贈の相続税は法定相続人の2割増しになるため、通常より相続税が高くなります。
受遺者は相続放棄も可能です。
特定遺贈はいつでも放棄できますが、他の相続人からすると、相続するのかしないのか気になるものでもあります。
一般的には期限を設けて、期限内に回答しない場合は了承したものとみなすのが通常です。
包括遺贈の場合は、相続があったことを知った時から3か月以内に意思を示さなければ、相続するものとみなされます。
相続放棄は家庭裁判所に遺贈の放棄の申述で済みますが、トラブル回避のために内容証明を発送するのが一般的です。
法定相続人には遺留分といって、主張できる取り分があります。財産をすべてを第三者に譲渡されてしまっては、残された家族には不公平です。
遺留分を無視して特定遺贈を行うと後にもめる可能性が高くなるので、特定遺贈を行う場合は遺留分への配慮も必要です。
財産の一部を、法定相続人ではない人に相続させようと考えている場合は、法定相続人とトラブルを起こさないためにも専門家への相談をおすすめします。